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第5回 特別編
スポーツトレーナー・清水忍氏に聞く〈後編〉
トレーニング指導をするとき
心がけていることは何ですか?

2018/6/7

スポーツトレーナー清水忍氏
清水忍 スポーツトレーナー
(株)インストラクションズ代表 トレーニングジムIPFヘッドトレーナー
パーソナルトレーニングジムIPF
1967年生まれ、群馬県出身。1992年明治学院大学経済学部商学科卒。厚生労働大臣認定健康運動指導士。学生時代よりトレーニング指導に従事し、フィットネスクラブ運営会社での勤務経験あり。国際ホリスティックテラピー協会理事、横浜リゾート&スポーツ専門学校非常勤講師、ヒューマンアカデミー東京校非常勤講師、立教大学バレーボール部コンディショニングコーチ、プロ野球選手のパーソナルトレーナー(西武ライオンズ、広島カープ、オリックスバファローズ他)、『Tarzan』(マガジンハウス)に継続的に記事掲載中。

〈前編〉はこちらから

「なぜ」と「本質」の追求が
わかりやすさに

――こちらのパーソナルトレーニングジムは、どういう目的や思いで設立されたのでしょうか?

ちょっとおこがましい言い方ですが、「いただく仕事」から「自分から発信する仕事」に少しずつシフトしていきたいという思いがありました。いただく仕事が増えてきて、それに応えられないケースも出てきていたんです。

「トレーニングをみてほしいから、いついつ・どこどこに来てほしい」という依頼とともに、それをこなしきれないことも増えてきて、だったら自分の基地を作って、そこにみなさんが来てくれれば、リクエストに応えられると思ったんです。

それと、後進の指導がしたかったというのもあります。このジムを設立してすぐに「清水塾」という学びの場を作りました。それは僕が塾長で、僕が教えたいと思うカリキュラムを教える塾です。優秀な指導者を育てていくことは、僕が今でも一番やりたいことです。

――マスメディアでも多方面で活躍されていますが、メディアの仕事は、本業とのかかわりも含めて、どういうスタンスで取り組まれているのですか。

メディアの仕事をするときは、いただいたリクエストにどれだけ応えられるかということを常に考えています。と同時に、自分という存在を発信できるチャンスでもありますから、ここに清水というトレーナーがいてこんな考えをもっているということを、世の中の多くの人に知ってもらえればと願っています。

――メディアの仕事の企画やトレーニング方法などで、いいアイデアが浮かばないとき、どのようにブレイクスルーしていますか。

「なぜ」と「本質」の追求をするようにすると、たいていの壁はブレークできると考えています。

例えば、以前「腕立て伏せを100通り考えられますか?」という依頼がありました。でも、腕立て伏せのパターンなんてどう考えても100通りもありません。そこで、「なぜ」腕立て伏せをするのかを考えたんです。すると、腕立て伏せをすることで鍛えられる筋肉、つまり腕立て伏せの「本質」がわかる。で、その筋肉を鍛える100通りの方法なら…という道が見つかりました。

ほかにも、例えば研修とかトレーニングで、「1日1回2時間で30時間のカリキュラムを考えてほしい。内容は全部お任せします」という依頼があったとします。こういう場合もまず、僕に依頼がきたのは「なぜか?」と考えます。すると、たぶんこういうことを期待されているんだろうなという予想がつく。であれば、その期待に沿う内容にしようという方向性がつけられます。次に、どこまでの到達をめざすかを明確にします。ゴールを決めるわけです。すると、そのゴールにたどりつくために、1日目、2日目、3日目に何をすべきかを落とし込んでいけます。

ネタとかアイデアを考えるときは、「球体」をイメージしています。球体の表面ではなくて、まずその中心を考える。中心とはつまり本質、本来の目的ですね。その本来の目的を果たすために、あらゆる方向(球体の表面)に向かって思考を放射していくと、無限に広がっていくんです。

スポーツトレーナー 清水 忍

知っている・わかっている・教えられる

――なるほど、わかりやすい説明ですね。トレーニングの指導や後進の指導をされるとき、わかりやすく伝えるために気を付けていることはありますか。

それも、「なぜ」の追求ですね。「なぜそうなのか?」を相手にわからせるようにすることを心がけています。

僕がトレーニングの指導をするときは、「こういうトレーニングをしてください。なぜならば…」と必ず説明します。トレーナーをめざす生徒たちにも、何かを発言するときは、必ず相手に「なぜならば…」と説明できるだけの準備をしてから話すようにと指導しています。

そういう準備をすると、自分が本当に理解できているか、理解できていないとしたらどこが理解できていないのかがわかるようになります。

1つ、たとえ話をします。「薔薇」という漢字がありますけど、あなた(インタビュアー)は書けますか?(笑) 出版社に勤めている人でも書ける人って少ないですよね。でも「ばら」って読めますよね。つまり「薔薇」が「ばら」だということは知っている。でも、書けないということは「わかっている」とは言えない。次に「薔薇」が書けるとして、さらにその書き方を小学生に教えるとなると、さらにハードルが上がりますよね。

僕は、この「教えられる」レベルまで到達して、はじめて「指導者」だといえると思っています。「知っている」レベルを「わかっている」レベルまで上げて、さらに「教えられる」レベルまで持ち上げることで、人に指導ができる状態になる。そのためには「なぜの追及」を繰り返す必要があります。

例えば、「スクワットはこういうフォームでします」→「なぜならこうしないと膝を痛めるからです」→「なぜ膝を痛めるかというと膝の構造はこうなっているからです」と、「なぜ、なぜ、なぜ」で深堀りしていくんです。そこまで理解することで、やっとスクワットというトレーニングを人に教えられるレベルに達します。

スポーツトレーナー 清水 忍
トレーニング指導をするときによく使うという「ジムスティック」を持ちながら

――パーソナルトレーナーとして担当しているクライアントさんが、ダイエットやトレーニングにくじけそうなとき、どう対応・接していますか。

これは、クライアントによりますね。相当厳しく指導してもできる人もいますし、自主性に任せないといやになってしまう人もいます。これだけはやってください、そのほかのことはお任せしますといった指導が向いている人もいます。

ダイエットでもトレーニングでも、途中でくじけてしまう人というのは、たいていやりたくないという気持ちが根本にあって、やらなくていい正当な理由を探そうとするんですね。ですから、時間はかかりますけれど対話をすることが大事になります。やらせるのではなく、やろうという気になるまでカウンセリングを繰り返すこと。そして、いざやろうとなったらしっかりサポートしていく。

僕は過去に糖尿病患者を対象とした講習会やサポートをした経験があるんですが、生活習慣がよくないために糖尿病になった人の中には、ちょっと厳しい言い方ですが、意志が弱い人もいました。そういう人の生活習慣を改善するというのはかなり難しいことなんです。一時的に生活を強制して体重や血糖値を下げられたとしても、2ヵ月なり3ヵ月なり、その強制期間が終わると、すぐ元の生活に戻ってしまう人が多い。だから、もっと根っこの部分を話し合って根本的に理解させていくことが必要になります。

スポーツトレーナー 清水 忍

教え上手な人たちの“虎の穴”をめざして

――トレーナーとして心がけていること、肝に銘じていることがあれば教えてください。

僕は常々、自分は「たかがトレーナー」「所詮トレーナー」だと思うようにしています。僕らの役割は、本気で目標に向かっているアスリートをアシストすること。いわば輝きたがっている原石を、ほんの少しだけ磨いて輝かせることです。

時々、自分が指導して成功した選手について、「あいつはオレが育てた」なんて言って勘違いしているトレーナーとか指導者がいますが、あれはナンセンスですね。だって、その人が指導した選手が全員成功するわけではないですから。

僕もこれまで多くの選手をみてきましたが、まったく同じことを指導しているのにすごく伸びていく人もいれば全然伸びない人もいるんです。ですから、指導した選手が活躍しても、それは自分の力ではないんだということを本当に実感しています。

――トレーナーをしていてよかったと思うのはどんなときですか。トレーナーの仕事の魅力、やりがいとは?

小さい話ですと、「わかった!」と言ってもらったときですね。「わかった」とか「できた」とか言って喜んでもらえた瞬間は、「ああ、自分にも存在価値があったんだな」と思えます。

あとは、僕が指導した人が、僕が言ったことと同じことを、別の誰かに言っているのを聞いたとき、ですね。選手がインタビューされていて、僕の言わんとしたことを自分の言葉にして語ってくれているのを聞いたときなど、「少なくとも何らかの影響を与えることはできているのかな」と思ってうれしくなります。

――今後はどんな仕事をしていきたいですか。

やはり後進の指導ですね。「教えるのがうまいね!」って言われる人たちの“虎の穴”になりたいんですよ(笑)。

僕の会社の社名は「インストラクションズ」といいます。これは造語なんですが、「教えることのプロフェッショナルの集合体」を意味していて、僕がめざすところもまさにそこ。ですから、「あそこを出てきた人たちは本当に教えるのがうまいね」と言われるようになりたい。そのために、自分自身を磨きつつ、原石をたくさん磨いていきたいです。

――本日はお忙しいなか、ありがとうございました。わかりやすく伝えるコツなど、私たち編集者の仕事にも役立つヒントがたくさんありました。清水さんの今後のますますのご活躍を祈念します。

〈前編〉はこちらから

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