2018/12/27
――松井さんは、当社の仕事以外にも、ライターとしてさまざまな仕事に携わっておられますが、最近の仕事で印象に残っているものについてお聞かせください。
2018年の春に航空会社の機内誌の仕事をさせていただいたのですが、それが楽しかったですね。「南国フルーツ」の特集記事の取材で、3日間で沖縄本島と離島を回りました。
パイナップルやマンゴーを栽培している農家さんにおじゃましてお話を聞いたり、名護市にある農業研究センターの方や農業大学校の先生に南国フルーツの魅力や特長などを語ってもらったりしました。
農業研究センターでは、ドラゴンフルーツの品種改良の話が面白かったです。ドラゴンフルーツってサボテン科の果物なので、茎の表面にトゲがあるんですね。それで、そのトゲが鋭いと農家の方が栽培時にけがをしやすく、作業効率も悪くなってしまうので、トゲを和らげるための品種改良をされているそうなんです。なんかマニアックでしょう?(笑)。
パイナップルの葉にも結構トゲがあるので、やはり栽培のしやすさも考慮して、新しい品種を開発されたそうです。品種改良というと、大きさや形、味などの改良を思い浮かべがちですが、「そういう品種改良もあるんだな」と非常に興味深くお話を伺いました。
おいしいフルーツを世の中に提供するために、いろいろな方々が地道な努力をされているのを知ることができて、たいへん勉強になりました。
――松井さんは仕事の範囲が本当に広いですよね。あまり分野を特定されていないのでしょうか。
そうですね。本当にいろいろな仕事をさせていただいています。何か特定の分野を掘り下げていくのも一つの道でしょうが、結果的に、私の場合はさまざまな分野のお仕事に携わらせていただいています。興味のあるテーマに出会うと「もっと深く掘り下げたい」と思うので、正直言うと、時にもどかしさを感じることもありますが、こうしてさまざまな世界を見聞きできるのはとっても楽しいですね。
私はもともと好奇心が旺盛で、自分の知らなかったことに出会うと、うれしくなって、「もっと知りたい!」って思うんです。先ほどの品種改良の話もそうですが、できるだけニュートラルな気持ちで相手の話を聞き、そこで素直に感じた驚きや感動などを、新鮮なまま、なおかつ正確に読者の方に伝えたい、と思っています。
――当社では、ドクターをはじめ、医療・健康関係の専門家への取材をお願いすることがありますが、医療・健康系のライティングの仕事には、どういうスタンスで取り組んでいますか。
ドクターや大学の先生に取材や原稿依頼をしますと、やはり専門用語がたくさん使われることがあります。そういった難しい言葉や文章を、一般の人にも伝わるように、わかりやすいものにしていくことが大切ですよね。それと、医療・健康関係の記事は、やはり人の体にかかわるものですから、正確性ももちろん重要です。
なので、心がけていることは「わかりやすさ」と「正確性」の2つです。
でも、この2つの重要性については、研友企画出版さんのお仕事をさせていただくなかで、編集者の方からずいぶん学ばせていただいたと思っています。初めから医療・健康分野に詳しかったわけではないので、研友企画出版さんの仕事に携わるなかで、編集担当の方の妥協しない姿勢や的確な指摘のおかげで、鍛えていただいたと感謝しています。
――文章を書くのはもともと得意だったのですか。どういういきさつでこの仕事をされるようになったのでしょうか。
文章を書くことは、子どものころから好きでしたね。小さいころは、よく友人宛に何通も何通も手紙を書いていました。日記を書くことも好きでしたし、文章を書くことを苦痛に感じたことはほとんどなかったように思います。
短大卒業後、数回転職したあと、20代の半ばごろに小さな編集プロダクションに入社しました。文章を書く仕事はその時からですね。そこは本当に小さな会社だったので、何から何までやらされました(笑)。企画や取材、原稿書き、校正はもちろん、写真撮影まですることも少なくありませんでした。勤務時間も長かったし休みも少なかったですが、今思えば3年間みっちり仕事のイロハを教えてもらいました。
その後、いろいろなところで文章を書く仕事をしてきて、フリーとして完全に独立したのは2005年からです。ですからフリーになってからは14、15年くらいですね。
――ライターの仕事にもいろいろあると思いますが、どういうタイプの仕事が好きですか。
インタビューが好きですね。インタビューをすること自体も楽しいし、インタビュー原稿を書くのも好きです。
インタビューは、一人の方のお話をじっくり聞かせていただけるのが醍醐味ですが、特に、何かモノづくりに携わっている方の話を聞くのが好きです。何もないところからモノをつくっていく様子を見るのはわくわくするし、どんな思いでつくっているのか、あるいは発想の仕方など、その方の想いを掘り下げて文章にするのがインタビューの面白さではないかと思っています。
別の職業だったらおそらく出会うチャンスはなかったような方に会うことができて、初対面にもかかわらず、「取材」という名のもとに結構深い話が聞ける。これは、ライターという仕事の最大の魅力だと思っています。
――文章を書くとき、どういうふうに書き始めますか。最初におおよそのイメージを作ってから書くとか、ポイントを書き出してからあとで整理するとか……。
ある程度全体像を決めておいて、それから書き始めます。
たとえば、1ページや2ページで情報記事をまとめる場合、その記事で伝えるべきポイントを明確にして、そのポイントをより伝わりやすくするためのリード文や小見出し、文章の展開を考えます。
インタビュー記事にしても、やはり語り手の「核」となるような言葉をまず考えますね。そして、その言葉がより引き立つような展開を考えていきます。長い文章なら、「大きな核」のほかに「小さな核」もあって、それが小見出しになりますよね。ですから、「大きな核」→「小さな核」と書き出していって、それに肉付けしていく感じです。
――ライターとして、いつも心がけていること、肝に銘じていることがあれば教えてください。
まず、当たり前のことですが、読者対象を意識すること。記事を掲載する媒体の、メインとなる読者層について、性別や年代、職業や趣味・嗜好などを想像したり意識したりしますね。たとえば同じレストランの紹介記事を書くにしても、読者が20代の女性と50代の男性とでは、文章のテイストも伝えるべきポイントも変わってきますからね。
それから、取材をするときは、下調べはもちろん大切ですけれど、既存の情報を過信しないようにしています。今はインターネットで簡単に情報が入手できますけれど、そうした情報は信ぴょう性が薄いものも少なくないですし、せっかく自分が現場に行くのだから、自分の目と耳で得た情報をきちんと記事に反映させるようにしています。
文章を書く際に気を付けていることは、先ほども話しました「わかりやすさ」です。作家やエッセイストなどは、それぞれの個性がその人の魅力であり、読者もそれを求めているわけですよね。でも、私が書く文章はそれらとは別物なので、誰が読んでもすんなりと内容が頭に入ってくるような文章であることが大事だと思っています。
ただ、インタビューになると話は少し違います。インタビューの場合は、なるべく本人の言葉を大切にしたいので、少し癖のある言葉であっても、本人が使った言葉であれば極力それを生かして、その人の肉声が聞こえてくるような文章を心がけています。
――「プロの道具」として使っている、こだわりのモノがあれば教えてください。
こだわりというほどでもないんですが、取材のときに使うノートですね。「ソフトリングノート」といって、リングの部分が金属ではなくやわらかい素材でできています。文字を書くとき、手にあたってもやわらかいので気にならないし、それでいてしっかりしているので持ちやすいんです。
ライターの仕事では、立ったままメモをとるようなこともよくありますけれど、このノートはどんな体勢でも書きやすいです。もう何年もこればかり使っています。
――いつもお忙しそうですが、膨大な仕事をこなしていくために、時間管理はどう工夫されていますか。
ライターの仕事のメインは「書く」ことですが、それ以外にも、調べ物をしたり、データを入力するような機械的な作業もあります。ですから、原稿を書くのは頭が冴えている時間帯に行って、夜はそれ以外の作業時間にあてるなどして調整しています。
――最後に、もし好きなように仕事をしていいといわれたら、何を望みますか。それと、今後はどのように仕事をしていきたいですか。
できることなら、もう少し腰を据えてじっくり取り組みたいですね(笑)。ライターの仕事は常に締切があって、あまり余裕のないスケジュールの中で常にアウトプットし続けなければなりません。もう少しじっくり調べたいとか、もう少し時間をかけて書きたいとか、時々充電する時間をもちたいとか思うこともありますが、現実的にはなかなか難しいですね。
今後は、やはり一つ一つの仕事を丁寧にこなしていきたいです。フリーライターの仕事をしてきてつくづく思うのは、人とのつながりや人からの信頼が、何より大切だということです。一つ一つの仕事をしっかり行うことで、評価をいただけて、次の仕事にもつながるし、新たな取引先をご紹介いただけるチャンスも生まれます。ですから、これからも与えられた仕事の一つ一つに、丁寧に向き合っていきたいです。
――いつも仕事の予定でびっしりの松井さん。仕事の依頼が途切れることのない理由は、仕事に対する松井さんの真摯な姿勢にあるのだと、改めて感じました。お忙しいなか、ありがとうございました。