出版業界と切っても切り離せない業界、それが印刷業界です。
私たちのオフィスには、毎日のように印刷会社の営業さんが訪れます。あるときはどのような紙で印刷するか、納品日はいつにするか打ち合わせをしたり、あるときは出来立てホヤホヤの見本品を持ってきてくれたり……。より良い本を世の中に送り出すため、お互いに切磋琢磨しながら協力し合う関係です。
今回の「&VOICE」では、長年弊社とお付き合いのある文唱堂印刷株式会社様の印刷工場を見学させていただき、「どうやって印刷物が出来上がるのか?」を新米編集者がレポートします。
2019/9/26
千代田線、京成線町屋駅から徒歩10分。住宅街の中を進んでいくと、文唱堂印刷株式会社町屋工場が見えてきます。
今回、工場の案内をしてくださったのは、K常務取締役と営業部のYさん。
この工場はできてから、どのくらいになるんですか?
来年で35年になります。
35年!私(27歳)より先輩だ。結構歴史があるんですね。
もともとは都内にいくつかあった工場をまとめる形で、1985年に町屋に総合工場として新設しました。加工作業などを含めて、印刷工程を一カ所ですべて行える工場は少ないんですよ。後ほど紹介する輪転印刷機という印刷機を稼働させているのは、都内ではうちだけなんです。
これは期待できそう。早速、工場の中を見学させてください!
それでは実際の印刷の製造工程に沿ってご案内します。今回は工程の中でもメインとなる①プリメディア(印刷前工程)、②印刷、③製本・加工、を説明しますね。
ぼくたち編集者は、本や雑誌の中身をPCで組版データとして作成します。その組版データが完成したら、印刷会社の営業さんに渡しますよね。その後、文唱堂さんでは、どんな作業をされているんですか?
まず、いただいたデータを「面付け(めんつけ)」します。書籍などページが多いものを印刷する場合は、1枚の紙に1ページずつ印刷するのではなく、大きな紙にページを並べて印刷し、用紙を折って本にしています。「面付け」は、後の「折り」の工程で、きちんと正しいページ順になるよう、1枚の紙にページの配置を行う作業です。
確かに1枚の紙に1ページずつ印刷していると、時間も膨大にかかるし非効率だ。その点、大きな紙で複数ページ印刷されれば、効率もよくなりますね!
そのとおりです。面付けを終えたら、データに「RIP(リップ)処理」を施します。B子さん!
RIP処理ってどんなことをすると思いますか?
う~ん、リップというからには、機械同士でキスをするとか…?
いえ、違います(笑)RIP処理はざっくりいうと、PCで作成したデジタルデータを、印刷機で印刷できるように、「網点(あみてん)」に変換する作業のことなんです。印刷物は、肉眼ではわからないくらい細かく小さなドットである網点で、文字や絵を再現しているんですよ。
なんでRIPっていうんだろう?
RIPとは「Raster Image Processor」の略。ラスターイメージとは、規則的に並ぶドット(点)で表現された画像のこと。複雑な組版データは、印刷に適したデータ、つまりドットに変換されているのだ!
ほんとだ!印刷物を拡大鏡で見てみると、細かいドットの集合体になっていますね!
RIP処理を行ったあと、専用の機械で「プルーフ」という校正紙を出力します。そのプルーフを編集さんにお渡しし、印刷前に最終チェックをしていただきます。
Yさんがいつも持ってきてくださるプルーフって、すでに網点で出力されていたんですね。
そうなんです。プルーフでチェック終了、つまり校了になると、「刷版(さっぱん)」という工程に移ります。刷版はいわゆるハンコを作るようなもの。専用の機械でアルミ製の板に、版を焼き付けます。青い部分が実際にインキが載るところですよ。ちょうど今、新しい板が出てきましたよ!
あ!これ、私が担当したページだ!うわあ~感動です!(A子は『すこやかファミリー』編集部員)
プルーフとは別に、「色校(いろこう)」という校正紙を出してさらにチェックする場合は、刷版を行ったうえで校正機という機械で色校を出力します。
さあ、「刷版」が終わったら、いよいよ「印刷」です!
待ってました!!!
まずは「平台(ひらだい)印刷機」をご紹介します。あらかじめ断裁してあるカット紙(枚葉紙という)を使用して印刷する機械です。部数が約200~1万部の場合は、この平台印刷機を使用します。
インキは、見たところ4つですね?
印刷物は基本的に「CMYK」の4色のインクを掛け合わせて表現しているんですよ。K⇒C⇒M⇒Yの順番で、インキが濃い順から刷っていきます。
あらかじめカットされている紙といっても、かなり大きいですよね。カット紙1枚で、A4何ページ分になるんですか?
先ほど面付けの話をしましたが、A4の場合はA版という紙を使用し、1枚で裏表16ページ分になります。B版の場合は、B5なら32ページ分です。
想像していたよりも、カット紙1枚で印刷できるページ数って多いんですね!
次に、こちらが「輪転印刷機」です。
お、大きい!これ全体が「輪転印刷機」ですか?
そうです。巨大なトイレットペーパーのようなロール状の紙を使って、大量部数を印刷しています。1時間で36,000回転、つまり1分間に600回転します。
4色印刷ユニットの先にあるものは何ですか?
乾燥機、冷却器、そして折り機です。「輪転印刷機」は、印刷だけでなく、乾燥や冷却、折加工まで一気に行うことができるんです。乾燥機の中は、200度のヒーターになっており、一気に乾かしています。
200度!ほんの一瞬、ヒーターを通るだけで、重ねてもにじまない状態になるんですね。ヘアドライヤーとは次元が違いますね!(当たり前か……)
当社では、「POD(ピーオーディー)」という形式でも印刷を行っています。PODとはプリントオンデマンドの略で、「刷版」を行わずに、デジタルデータを直接紙に出力する方法です。最新の高機能プリンターによる出力で、従来の印刷方法と同等の美しい仕上がりになるんですよ。
(PODで出力された印刷物と平台印刷機で印刷された印刷物を見比べながら)確かに見た目では、違いがわかりません……!
PODの強みは、1部数からの小ロッド印刷に応えられるところです。必要な時に必要な分だけ印刷できるので、在庫レスでコスト削減にもつながります。
PODは、今後さらに需要が高まりそうですね。
印刷の最終工程が、「製本・加工」です。大きく分けて4つの段階があり、印刷物を決められたサイズに切る「断裁」、断裁された印刷物を機械で折る「折り」、断裁し折られたもの1つにまとめて本にする「綴じ」、そしてチラシの投げ込み・シール貼りなどの機械でできない作業を人の手で行う「手加工」です。
綴じ加工の機械の中にカメラが設置されていますが、何を撮影しているんですか?
乱丁防止のためのカメラで、ページが正しいかをチェックしています。その他にも、本の中身が1枚でも抜けていたら、機械が重さを感知してその印刷物だけ外すウェイトチェッカーなども設置してあり、二重三重のチェックを行っています。
正確な品質を保つための工夫がたくさんあるんですね。
これらの工程を経て、初めて1冊の本が出来上がります。
ようやく……。本ができるまでに関わる人、機械の数って想像以上に多いんですね。そのことを忘れないようにしたいです。
紙媒体の編集に携わっている以上、印刷の工程についてはしっかり理解しておく必要があると以前から感じていました。わからないところはその都度調べてわかったつもりになっていましたが、実際に現場を見ることで初めてわかったこともあり、理解が深まりました。
印刷工場を見るのは初めてでしたが、終始スケールの大きさに圧倒されました。全体をとおして感じたことは、乱丁などのミス防止のために様々な取り組みが行われていること。平台でも輪転でも、一度印刷にかけると恐ろしいスピードで刷り上がってしまうため、ミスは本当に許されないと改めて感じました。
物流などを含めて、昔はもっと多くの作業を人の手で行われていたと聞き、機械化の流れを感じました。製本されたばかりのできたてホヤホヤの本の匂いや温かさが印象的でした。普段仕事で関わっていながら、知らない部分が多かったと全体的に感じ、勉強になりました。
――文唱堂印刷株式会社様、このたびは貴重な機会をありがとうございました。