大腸に炎症が起こり、粘血便や下痢、腹痛などの症状に長期にわたり悩まされる「潰瘍性大腸炎」。まだ原因などはわかっておらず、国から難病に指定されています。患者数は年々ふえており、安倍晋三前総理も長年この病気を患っていることが知られています。潰瘍性大腸炎発症の症状や、現在行われている検査、治療法などについて解説します。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、粘液便や血便、下痢、腹痛などが起こる病気です。悪化すると血便や下痢の回数が増え、強い腹痛、発熱も見られるようになります。大腸粘膜の炎症がひどくなると、びらん(粘膜がただれる)や潰瘍ができ、それに伴って血便や下痢などの症状も強くなります。体重減少や貧血がみられることもあります。
また、潰瘍性大腸炎の炎症を起こしている期間が長くなると大腸がんを発症する人が増え、発症から10年くらい経ったときの大腸がんの発生率はおよそ5%といわれています。
はっきりした原因は不明ですが、遺伝的な要因に、食生活(欧米化した食事など)や、腸内細菌のバランスの変化などが加わって、免疫の働きに異常が起こり、発症するのではと考えられています。本来、食べ物とともに侵入した細菌やウイルスを排除する大腸の免疫細胞が、自分の大腸粘膜を攻撃してさまざまな症状が起こると考えられています。
日本では潰瘍性大腸炎の患者が増えており、患者数(医療受給者証が交付された人の数)は2014年度末には17万779人、その40年前に比べて10倍にもなっています。発症のピークは男女とも20~30歳ですが、高齢者や子どもにもみられます。
血便や下痢などの症状から、潰瘍性大腸炎が疑われる場合は、主に次の検査が行われます。
上記のほかX線撮影、X線CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)などの検査が行われることもあります。
潰瘍性大腸炎は、「活動期」と「寛解期」を繰り返す病気です。活動期は大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができて血便などの症状がみられる時期、寛解期はびらんや潰瘍がなくなり、症状の治まっている時期をいいます。検査の結果、活動期で症状が強く出ているときは寛解に導き、寛解期に入ったらそれを長く維持することを目標に、治療が行われます。
潰瘍性大腸炎の治療の中心となるのは薬物治療です。薬で大腸の炎症を抑え、症状をコントロールしていきます。
潰瘍性大腸炎の基本となる薬で、炎症を抑える作用があり、副作用が少ないので長期間服用できます。内服薬のほか、注腸剤や坐剤(坐薬)もあります。
炎症を抑える強い作用があります。内服薬のほか、注射、注腸剤、坐剤などもあります。効果が高い半面、副作用の恐れがあるので、長期間使わないなどの注意が必要です。
腸内の免疫異常を抑える内服薬で、寛解の維持や、ステロイドを減量する際の補助などを目的に使用されます。
これらの薬で症状が抑えられない場合は、抗TNF-α抗体製剤、カルシニューリン阻害薬、生物学的製剤などが用いられます。
重症で、薬物治療で十分な効果が得られない場合は、次の治療が行われます。
静脈から血液を抜き出し、異常に活性化した白血球を除去して再び体に戻す治療法です。効果はゆっくり現れますが、安全性の高い治療法です。
潰瘍性大腸炎の手術は、大腸がんの発生を防ぐために、大腸を全摘して、小腸と肛門部分をつなぐ手術が主流です。一時的に人工肛門がつくられますが、数カ月後、吻合した箇所が落ち着いたら閉鎖します。原則として、永久的に人工肛門になることはありません。
*潰瘍性大腸炎は、厚生労働省の定める指定難病の一つです。一定以上の重症度の人には医療受給者証が交付され、医療費の助成が受けられます。