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子宮頸がん
ウイルス感染が原因となって起こる女性のがん

子宮頸がんは女性の子宮の入り口(子宮頸部)にできるがんで、2018年には10,978人が子宮頸がんと診断され、2019年の統計では2,921人が子宮頸がんで命を落としています(国立がん研究センター・がん統計より)。子宮頸がんの原因は「ヒトパピローマウイルス」(以下HPVと表記)で、主に性交渉によって感染します。罹患者数(初めてがんと診断される人の数)で最も多いのは40代ですが、最近は20代にも患者数が増えており、若年化が進んでいます。

HPV感染から子宮頸がんになるのはごく一部。時間をかけて進行する

子宮頸がんの原因となるHPVは、女性の50%は生涯に一度は感染するといわれるほど一般的なウイルスで、女性だけでなく男性も感染します。ウイルスは遺伝子型が200種類以上あり、そのうち十数種類が子宮頸がんを起こしやすい「ハイリスク型」であることがわかっています。ただし、感染してもそのほとんどは免疫の働きで排除されるため、ハイリスク型のウイルスに感染すれば必ず子宮頸がんになるというわけではありません。感染した人のうち約10%にウイルスが残り、細胞が変化する「異形成」となります。異形成が進行して前がん病変である「高度異形成」となり、子宮頸がんの発症に至ります(異形成が見つかった人の0.1~0.15%が子宮頸がんになる)。

がんになっても初期にはほとんど症状はありませんが、進行すると出血したり、濃い茶色や膿のようなおりものが増えたり、水っぽいおりものや粘液が出たりすることがあります。

●子宮頸がんが進行したときに現れる自覚症状

  • 月経以外の出血(不正出血)
  • 性交渉による出血
  • 茶褐色、黒褐色のおりものが増える
  • 足腰の痛み
  • 血の混じった尿や便
  • 下腹部や腰の痛み
  • 水っぽいおりものや粘液が多く出る

子宮頸がん検診により早期発見を

子宮頸がんを早期に発見するためには、子宮頸がん検診を受けることが重要です。厚生労働省では20歳以上の女性を対象に、2年に1回の子宮頸がん検診を推奨しており、自治体ではこの指針に沿って検診を行っています。子宮頸がん検診では「細胞診」が行われます。綿棒やブラシなどで子宮頸部をこすり、細胞を採取して調べるものです。

その結果、異常がみられれば精密検査を行います。異常が認められるものの、精密検査が必要か判断の難しい場合は、ハイリスクHPVへの感染の有無を調べるハイリスクHPV検査を行うこともあります。精密検査は、コルポスコープ(腟拡大鏡)で病変部の観察を行いながら子宮頸部の組織を採取して顕微鏡で調べ、異形成、あるいは子宮頸がんの確定診断を行います。子宮頸がんと診断された場合は、がんの広がりをみるために内診、直腸診、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などを行います。

病期などによって治療法を選択

検査の結果、異形成であっても軽度または中等度の場合は、自然に排除されることも多いため経過観察となります。その場合、必ず定期的に検査を受けて、進行していないかチェックします。

高度異形成と上皮内がんは、まだがんにはなっていない前がん病変ですが、治療の対象になります。子宮頸がんの治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法の3つがあり、進行度や、年齢、治療後の妊娠希望の有無、基礎疾患(持病)の有無などを考慮に入れ、治療法を組み合わせます。

■手術(外科的手術) ― 子宮を残すケースと、摘出するケースがある

前がん病変を含め、早期のがんで妊娠の希望がある場合、子宮を残す「温存手術」が検討されます。

●レーザー蒸散術……子宮頸部の異形成部(前がん病変)をレーザーで焼く方法で、手術時間は5~10分程度です。外来や日帰りでの治療も可能です。

●円錐切除術……レーザーや超音波メスなどで子宮頸部の一部を円錐状に切り取る手術です。高度異形成による病巣をすべて取り切るケースと、画像検査でわからないような早期がんが疑われる場合に、一部を切除して調べるケースで行われます。

●広汎子宮頸部摘出術……がんを完全に取り切るために子宮頸部の広い範囲を切除する手術です。妊娠する能力を保持するために子宮体部と卵巣を残すようにします。

進行している場合などは全摘手術の選択も

がんの進行度や組織のタイプなどに応じて、妊娠を希望しない場合は子宮全摘出手術を行います。この手術によりがんをすべて取り切れる可能性が高くなります。また、切除した組織を調べて、手術後の治療方針を決めていきます。

●単純子宮全摘出術……子宮頸部の周りの組織は残し、子宮だけを切除する手術です。

●準広汎子宮全摘出術……がんの深さや広がりが一定の範囲内にある場合に行う手術です。子宮傍組織(子宮を支える靭帯などから構成される組織)の一部、膣の一部、骨盤内のリンパ節を切除するもので、切除した組織に対してはすべて病理検査が行われます。

●広汎子宮全摘出術……がんをすべて取り除くために子宮と骨盤内のリンパ節を切除する手術です。完全に切除することによって完治が期待でき、転移の有無なども詳しく調べることができます。

■放射線治療 ― 他の治療法と組み合わせて行う場合も

高エネルギーのX線やガンマ線などの放射線をがんに当てて治療するもので、主に次の治療法があります。

●外部照射……骨盤の外から放射線を当てる

●腔内治療……直接、子宮頸部のがんに放射線を当てる

●同時化学放射線療法……照射範囲内の目に見えないがんを抑える、あるいは骨盤周辺からの再発を防ぐ目的で、放射線治療に加えて抗がん薬による化学療法を行う。

■重粒子線治療

通常の放射線では根治が難しいがんに対して行われます。炭素イオン線を用いるもので、がん細胞を破壊する効果が強く、病巣に高線量を集中させることができるのが特徴です。子宮頸がんの重粒子線治療は先進医療の対象になっており、重粒子線治療の部分は自費になりますが、その他の医療費には健康保険が適用されます(令和3年12月1日現在)。

■薬物療法

多くの場合、遠隔転移のある進行がんや再発した場合に行われます。

●細胞障害性抗がん薬……細胞の増殖の仕組みに着目して、がん細胞を攻撃する薬を使用します。主にプラチナ製剤(シスプラチン)と他の薬(パクリタキセルなど)を併用して行われます。

●分子標的薬……がん細胞への血管新生を阻害してがん細胞の増殖を抑える薬で、ベバシズマブという薬が用いられます。

薬物療法を終了した後は、再発や転移、合併症・後遺症などを早期発見できるように、定期的な検査を継続します。

子宮頸がんワクチン接種の有効性

HPVは主に性交渉によって感染するため、予防には性交渉を経験する前にワクチンを接種することが最も有効とされています。日本では2013年から、小学6年生~高校1年生を対象に子宮頸がんワクチンの定期接種が行われており、対象者は公費で接種を受けられますが、接種後に体の痛みなどの副反応をうったえる人が相次いだため、国は接種の積極的な勧奨を中断しました。

しかし最近になり、海外の複数の国から接種の安全性や、高い予防効果を示すデータが報告されていることから、国では子宮頸がんワクチンの積極的な接種の呼びかけの再開を決定しました。たとえば、スウェーデンの報告では、2006~17年に子宮頸がんワクチン接種を受けた10~30歳の167万人を追跡調査し、その後の子宮頸がんの発症リスクを調べたところ、ワクチン接種群の発症リスクは非接種群より63%低下しており、17歳未満に限るとワクチン接種群は88%も低下していました。

国ではこの8年間で対象年齢を過ぎてしまった人も公費で接種が受けられるよう救済措置を設けることも検討しています。

なお、HPVは子宮頸がんだけでなく、男性の肛門がん、陰茎がん、咽頭がんなどの原因になることがわかっています。オーストラリアやアメリカ、イギリス、カナダなど、およそ20の国々では、女性へのHPV感染を減らすとともに、男性の感染を減らすことを目的に、男性にも子宮頸がんワクチンの接種が行われています。

 

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