シドニー大学などの調査(2011年)によると、日本人(成人)は平日に1日当たり420分(7時間)座っており、世界で最も長い時間であることがわかっています。長時間座り続けていると血流や筋肉の代謝が低下し、心筋梗塞、糖尿病などのリスクが高まることが指摘されています。デスクワークなどで1日中座っているという人は注意しましょう。
座り過ぎが健康に悪影響を及ぼすメカニズムは十分に解明されていませんが、現段階では次のような説があげられています。
身体活動、特に立ち上がることや歩行などは、筋肉の収縮を促し、血中の糖分や中性脂肪を細胞内に取り込む重要な役割を果たしています。しかし、長時間座り続けることで、この重要な機能が阻害されてしまいます。
血液中の糖分や中性脂肪の濃度が上昇すると、血液の粘性が高まります。これにより、糖尿病や脂質異常症といった代謝性疾患のリスクが増大します。また、血圧の上昇や血管機能の低下が引き起こされ、虚血性心疾患や動脈硬化などの心血管疾患のリスクが高まる可能性もあります。
厚生労働省は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(以下、運動ガイド)を策定し、個人差があることをふまえて、「今よりも少しでも多く身体を動かすこと」「座りっぱなしの時間が長くなり過ぎないよう注意する」ことを推奨しています。
運動については「息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上」行うこと、とくに筋力トレーニングを取り入れることを勧めています。筋トレは、高齢者でも身体活動の改善や発症リスクを減らす効果があることがわかっています。全く行わないよりも、短時間でも実施したほうが死亡や心血管疾患、がん、糖尿病のリスクが低くなることが報告されています。あまり長時間やり過ぎると、逆にリスクが高くなるため、週2~3回程度行うのがよいでしょう。
体を動かさずに楽をしたいというのは人間の本能ですが、長時間動かないでいると精神活動が低下して、憂うつな気分に陥りがちになります。小まめに体を動かしてやるべき用事を片づけてしまうなど、日々の充足感を高める発想の転換が必要です。
「運動ガイド」の内容をふまえて、座り過ぎを防ぎ、職場での健康づくりに取り組む企業が増えてきています。朝や休憩時間に体操・ストレッチをする運動機会を提供したり、階段の利用や徒歩・自転車通勤の推奨、スタンディングミーティングを実施するなど、さまざまな取り組みを行っています。スポーツ庁は、社員の健康促進のためにスポーツに親しめる環境づくりを進める企業を「スポーツエールカンパニー」として認定する制度を設けています。
「運動ガイド」作成に携わった澤田亨氏(さわだとおる・早稲田大学スポーツ科学学術院教授)は、個人でできる座り過ぎを防ぐ日常の工夫として次の3つをあげています。
◎タイマーをかけて30分ごとに立ち上がる
◎テレビのCMの時間は立つ
◎立って仕事をする時間をつくる
澤田氏は「これはあくまでも目安です。1人ひとりの体力などに応じて、今より少しでも体を多く動かしてほしい」と述べています。立っているだけでも筋肉を使い、エネルギーを消費する運動につながります。座り過ぎていると感じたら、まずは立ち上がって体を動かしてみるようにしましょう。
参考サイト
スポーツ庁 Web広報マガジン DEPORETARE