去る10月23日、全国の健保組合の代表者約4,000人が集結して健康保険組合全国大会が開催されました。その大会のなかで行われた、超高齢社会への対応についての講演の後編をお届けします。何かと否定的に捉えられがちな高齢社会ですが、「健康で自立した生活を送ることができるなら、長生きするほどその時間は人生に大きな幸福をもたらす」「楽しく生きると健康になってしまう」―そんな希望あふれるメッセージが発信されました。
人類の長い歴史を振り返れば、人の死因は圧倒的に飢餓と戦争でした。この結果、長年にわたって医療が戦ってきた相手は感染症です。しかし、今や多くの感染症には効果の高い治療薬が開発され、感染症による死亡者は激減しました。昔の人から見れば、現代の私たちの殆どが120歳まで生きているはずです。しかし、現実には、「食べ過ぎ」と「運動不足」と「ストレス」によって、生活習慣病という新しい病気を作り出しているのです。結核を始めとする感染症は外からくる敵との戦いでしたが、がんや糖尿病などの原因は自分の中にあります。病気の性質が根本的に変わっているのです。
実際、現在の医療費の半分以上が生活習慣病と老化由来の疾患です。私たちが目を向けるべきは高齢化ではなく、その下で進む疾患の性質の変化なのです。主たる疾患が、感染症から生活習慣病、老化へと変わったことに適切に対応できれば、社会保障の問題は様相が一変します。これまでの医療は病名がついたところから始まります。しかし生活習慣病や老化由来の疾患は予防や進行抑制ができるのです。
生涯にわたって健康を維持するためには、若い世代のうちから健康管理に取り組む習慣をつけることが重要です。そこで経済産業省では「健康経営銘柄」や「健康優良法人」を選定する取り組みを通じて、従業員の健康管理が企業戦略上重要であることを経営者に理解してもらう「健康経営」という取り組みを行っています。この取り組みは就職活動中の学生さんに大ヒットしました。健康経営を推進する企業は「ホワイト企業」であるとして、良い人材が集まり、金融機関からは優良貸出先と認識され金利が引き下げられ、さらには公共事業の入札条件にも入れられるようになりました。
この結果、今では大企業だけでなく多くの中小企業までもが「健康経営」に取り組んでいます。今後は女性にとって働きやすい職場環境の実現を目指したいと考えています。これまでは同じような人を集めて競争させることがマネジメントの基本でしたが、これからは多様な人材を確保することが企業戦略の重要な部分を占めることになるからです。
今後一層高齢化が進む中で、若い頃から健康管理に取り組みやすい環境を整え、生涯にわたって楽しく健康管理を行えるサービスが充実したとき、医療費や介護費は本当に増え続けるのでしょうか。誰もが役割を持ち続け「生涯現役」であることを実現し、80歳になっても100歳になっても今が一番楽しいと言える社会をつくることができれば、超高齢社会は素晴らしい社会になると思います。