適応障害とは、ある特定の状況や出来事が強いストレスとなって心に不調を招いたり、行動にも影響が現れたりするようになり、それらの症状のために日常生活がスムーズに送れなくなってしまう状態をいいます。人はだれもが日々、大なり小なりのストレスを感じ、それを克服しながら日常生活を送っています。しかし、適応障害になるとそれができなくなってしまいます。
ICD-10(世界保健機関の診断ガイドライン)では、適応障害を「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」と定義しています。
ストレスの原因には、たとえば恋愛関係の破綻のような個人的なものから、自然災害のような社会全体を巻き込むものまでいろいろあります。また、個人によってストレスの感じ方や耐える力もさまざまで、ストレスに対する適応力も適応障害の発症に深くかかわっています。
精神的な症状では、憂うつな気分や不安感、怒り、焦り、緊張感が強くなったりします。行動面では、暴飲、暴食、無断欠勤や遅刻、暴言をはく、などのほか、モノを壊すなどの過激な行動がみられることもあります。
ICD-10によると、「発症は通常、生活の変化やストレス性の出来事が生じて1カ月以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」としています。
適応症障害では、多くの場合、ストレスの原因となっていることから離れると、症状も軽くなります。職場や学校でのストレスが適応障害の原因となっているケースでは、休みの日になると憂うつな気分が消えてしまうことも少なくありません。また、たいていはストレスの原因がなくなれば症状も改善し、深刻な状況にはならない場合がほとんどです。その一方で、何の対策も行わないで放置していると慢性化する恐れがあるだけでなく、うつ病になってしまうケースもあります。
適応障害の治療としてまず重要なのは、原因となっているストレスを取り除くことです。たとえば、職場における人間関係や仕事の内容が原因となっている場合は、1人で抱え込まずに信頼できる同僚に相談したり、時には配置換えの希望を出すことも考えられます。
1位 | 職場の人間関係の問題 35% |
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2位 | 仕事の量の問題 32% |
3位 | 仕事の質の問題 30% |
(厚生労働省 平成14年度調査)
また、ストレスに対する適応力を高めるために精神療法や心理療法も行われます。認知行動療法はその一種で、出来事に対する受け止め方やものの見方(認知)のクセを修正して軽くする治療法です。認知行動療法では医師と患者が協同して行う方法だけでなく、「活動記録表」や「自動思考記録表」に記入するなど、患者自身が主体的に取り組む方法も行われます。(参考:うつ病の認知療法・認知行動療法-患者さんのための資料-)
これらの対策や治療を行っても症状がすぐに改善しない場合は、薬物療法が行われます。不安や不眠などに対してはベンゾジアゼピン系の薬、うつ状態に対しては抗うつ薬などが用いられます。ただし、薬物療法は対症療法的な位置づけといえます。根本的な治療としては、ストレス除去と精神療法・心理療法がとても重要です。