乳がんは日本の女性にもっとも多いがんで、2017年に新たに乳がんを発症した女性は91,605人(*)、生涯で女性11人に1人が乳がんになるといわれています。乳がんは早期に治療すれば治りやすいがんといえますが、そのためには国が推奨する乳がん検診をはじめ、適切な検査を受けることが大切です。
*国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」より
乳がんは一般に進行が遅く、早く見つけて早く治療すれば治る可能性の高いがんです。しこりとしてわかるようになる前の小さながんを発見するには、画像検査による乳がん検査が有効です。
乳がんを見つけるための代表的な検査には、マンモグラフィ(乳房X線)検査と超音波(エコー)検査の2つがあります。
マンモグラフィ検査は乳房を圧迫板という薄い板ではさみ、押し広げて撮影します。これによって診断しやすい撮影ができ、腫瘤や石灰化などの小さな病変を発見しやすくなります。超音波検査は乳房に超音波を当て、その反射波を利用して画像をつくります。
国の乳がん検診の指針では、40歳以上の女性に対し、2年に1回マンモグラフィ検査を受けることを推奨しています。マンモグラフィの画像は、がんは白く写り、乳房の中の乳腺も白く写るのが特徴です。日本人女性には乳房の中の乳腺が多い「高濃度乳房」の人が多いため(若い世代ほど多い)、マンモグラフィ検査ではがんが見つかりにくい傾向があります。一方の超音波検査は、乳腺は白く写りますが、がんは黒く写るので、乳腺とがんを判別しやすいのが利点です。そこで、乳腺の多い40代では、マンモグラフィ検査と超音波検査を併用する、あるいはマンモグラフィ検査を受けない年には超音波検査を受けるというようにマンモグラフィ検査と超音波を1年ごとに交互に受けると、乳がん発見の精度を高めることができます。以上の検査で乳がんが疑われれば、細胞診や組織診、造影剤を用いたMRI検査などが行われます。
がん検診で見つかる乳がんは、ほとんどが早期がんです。がん検診の結果、精密検査を受けるよう指示されたら、怖がらず、必ず受けるようにしましょう。
日ごろから自己触診を行うことによって、乳がんを発見できることもあります。入浴時に泡立てた石けんを手につけ、乳房の外側から円を描くように乳頭に向かってしこりがないか触診するとともに、乳房にへこみやひきつれがないかを鏡に映して確認しましょう。
乳がんの多くは、食生活や喫煙・飲酒などの環境要因によって発症すると考えられていますが、5~10%は遺伝性の乳がんといわれています。家族や親せきなどの血縁者に乳がんを発症した人が多い場合はその可能性があります。遺伝性の乳がんで多いのは「乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」という病気で、乳がんのほか、卵巣がん、卵管がんも発症しやすいのが特徴です(男性は乳がん、前立腺がんなどの発症率が高い)。すでに乳がんを発症した人で次に当てはまる人は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の可能性が考えられます。
また、乳がんを発症していない人でも、血縁者が遺伝性乳がんを発症しやすい遺伝子変異があると判明している場合は、自身も同じ遺伝子変異を受け継いでいる可能性があります。
大学病院やがん専門病院、がん診療連携拠点病院などの一部では、遺伝性乳がんになりやすいかどうかを調べる遺伝学的検査を行っています。遺伝子変異が判明した場合は、若いうちから年1回MRIによる乳がん検診を受ける、がん検診を受ける頻度を増やす、などの対策がとれますが、事前に必ず遺伝カウンセリングを受け、遺伝学的検査を受けるメリット・デメリットなどをよく理解してから検査を受けることが非常に重要です。
2020年4月から、乳がん、卵巣がん、または卵管がんを発症した患者で、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の可能性が考えられる人は、遺伝子検査が健康保険で受けられることになりました。また、検査で遺伝子変異が判明した場合は、予防的に行う乳房切除や卵巣切除にも健康保険が適用されるようになっています。