かつて「肥満」といえば見た目の問題でしたが、今は「命に関わる病気の大きな原因」ととらえられるようになりました。とりわけ内臓の周りに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」を放置すると、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などを招く一因となり、さらに心筋梗塞や脳梗塞などのリスクも上昇させます。米国での調査から、肥満は新型コロナウイルス感染症の重症化とも関連があると指摘されています。肥満が引き起こす病気から体を守るために、肥満が気になる人は本気でダイエットに取り組みましょう。
私たちが食べ物から摂取したエネルギーが、運動などで消費するエネルギーを上回ると、消費できなかったエネルギーが体脂肪となって蓄積していきます。これが肥満の原因です。
欧米人には皮下に脂肪がたまる皮下脂肪型肥満が多いのに対して、日本人などのアジア人には内臓の周りに脂肪がたまる内臓脂肪型肥満が多い傾向があります。そのためアジア人は、軽度の肥満(BMI25~30)でも高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を発症しやすいといわれています。内臓脂肪型肥満は中高年男性に多く、女性は皮下脂肪型肥満が多いのですが、女性も更年期以降になると内臓脂肪型肥満の人がふえてきます。
消費できなかったエネルギーが内臓脂肪として蓄積されていくと、脂肪細胞に炎症が起こります。すると脂肪細胞から分泌されている生理活性物質(TNF-α、アディポネクチン、PAI-1など)のバランスがくずれて、先にあげた高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を発症しやすくなります。これらは動脈硬化を進める危険因子でもあるため、心筋梗塞や脳梗塞のリスクも上昇します。また、内臓脂肪型肥満の人は軽度の高血圧、高血糖、脂質異常があるだけで動脈硬化が進みやすく、さらにこれらを重複してもつほど動脈硬化が速く進むことがわかっています。
現在、40~74歳を対象に実施されている特定健康診査(いわゆるメタボ健診)は、内臓脂肪型肥満とそれを原因とする生活習慣病の予備群の人を見つけ、不健康な習慣を解消してもらい、肥満解消と病気予防につなげるのが大きなねらいです。
現在わが国では、成人男性の3割、成人女性の2割がBMI25以上の肥満とされています(平成30年、厚生労働省資料より)。また、40歳以上の4割弱が腹囲の基準(男性85cm、女性90cm)を上回る内臓脂肪型肥満です(令和元年、健康保険組合連合会資料より)。肥満の人はもちろん、年々体重もしくは腹囲が増え、肥満に近づいている人も、食事をコントロールし、運動を生活に取り入れて肥満解消を目指しましょう。
*BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m) 〈18.5以上25未満が普通体重〉
肥満を解消するためには食事の量を減らし、運動量を増やして、摂取エネルギーより消費エネルギーを多くすることが必要です。
健康的にやせるために、無理をして短期間でやせようとせず、ゆっくり減量することをおすすめします。まずは3~6カ月かけて、体重の3~5%減を目指しましょう。体重80kgの人なら2.4~4.0kgの減量となります。ここでは、4カ月で4.0kg減、つまり1カ月で1kg減らすことを想定して計算してみましょう。
体脂肪1.0kg(1,000g)を消費するには、どのくらいのエネルギーが必要なのでしょうか。脂肪1gは9kcal。しかし「体重1kgを減らすには9,000kcal消費すればよい」というわけではありません。人間の脂肪細胞は、約80%が脂質、約20%が水分や細胞を形成するさまざまな物質から構成されています。
したがって体脂肪1.0kg(1,000g)を消費するためには、9kcal×1,000g×80%=約7,200kcalを、「食事を制限する」「運動で解消する」の2つで減らすことが必要です。1カ月で1kg落とすには1カ月に7,200kcal減らす、1日あたりでは7,200kcal÷30日=240kcalを食事と運動で減らすことが目標となります。
ごはん茶碗1膳(150g)のエネルギー量は252kalで、半分に減らせば126kcalです。運動では体重80kgの人が10分間早歩きすると消費するエネルギー量は40kcalとなります。1日3食のうち1食のごはんを半分(126kcal)にし、30分の早歩き(120kcal)を加えれば、トータル246kcalとなり、1日に減らしたいエネルギー240kcalをクリアできます。
これにあわせて食生活では、「食品を買うときはカロリー表示をチェックしてから買う」「ドレッシングやマヨネーズなどの調味料はノンオイルのものに変える」「揚げ物の頻度を減らす」「間食の回数を減らす」なども、できる範囲で実行しましょう。
消費エネルギーを増やすために、「電車では座らない」「会社や駅では階段を使う」「なるべく立ったままで打ち合わせをする」など、意識的に体を動かすようにすればより効果はアップします。また、「有酸素運動」と「レジスタンス運動(筋力トレーニング)」をバランスよく取り入れることをおすすめします。
ウオーキングやジョギング、水泳などを、少し息が上がる程度の強さで週3回程度行うとよいでしょう。
スクワット、腕立て伏せなど、筋肉に負荷をかける運動を、週に2~3回程度行うとよいでしょう。
※数値は「日本食品標準成分表2010」「健康づくりのための運動指針2006」より算出。
PartIIでは肥満外来などについて解説します。