肥満は生活習慣病や関節障害など、さまざまな健康トラブルを招く原因。すみやかに解消すべきなのはいうまでもありませんが、「努力してもダイエットがうまくいかない」「健診機関から減量をすすめられたがやり方がわからない」「いったんやせてもリバウンドしてしまう」という人もいます。そのような人たちを対象に、専門家がサポートし、安全かつ効果的にダイエット成功に導くことを目的に設けられているのが「肥満外来」です。
肥満は、糖尿病、脂質異常症、高血圧をはじめ、高尿酸血症・痛風、睡眠時無呼吸症候群、一部のがんなど、さまざまな病気の一因となることが知られています。しかし、肥満の原因になる過食や運動不足などの生活習慣は長年にわたって身についたもので、自分で修正するのは容易ではありません。肥満外来は、医師をはじめとする専門家が効果的なダイエット法を指導し、肥満による疾患を予防・改善してもらうことを最大の目的としています。
肥満外来の診療内容は医療機関によって異なりますが、一般的に次のような流れで指導や治療が行われます。
指導には、医師のほか、医療機関によっては管理栄養士や健康運動指導士が加わり、食生活や運動に関するアドバイスを行っているところもあります。また、肥満の原因に心理的な背景が影響している場合があることから、臨床心理士が指導に加わる医療機関もあります。
一般に肥満外来は、本人の身体上の問題が肥満だけで、前述の検査でとくに疾患がなければ自費診療になりますが、肥満に加え、糖尿病、脂質異常症、高血圧、関節障害といった肥満に関連した疾患があれば、健康保険が適用されます。また、こうした疾患がなくても、BMI35以上の高度肥満の場合も健康保険が適用されます。
肥満外来で何らかの疾患が見つかった場合は、疾患に応じた薬物治療も行われます。
また、肥満外来で特徴的な薬としては、サノレックス(商品名:マジンドール)があげられます。厚生労働省が認可した食欲抑制薬で、空腹を感じにくくし、食べる量を減らす効果が期待できます。BMI35以上の場合は、健康保険で処方が受けられます。
肥満外来での指導や治療開始後は、一定期間ごとに外来を受診して体重や腹囲、血液検査などを行い、ダイエットの成果を確認します。ダイエットの成果や検査値の改善効果が不十分だった場合は、医師らと本人によって問題点を明らかにし、改善策を検討します。
こうしてダイエットをつづけ、体重や腹囲が目標に達し、検査値も改善または安定したことが確認されると通院は終了となり、あとはリバウンドしないように気をつけながら自分で肥満予防を続けます。
重度の肥満で、肥満外来に通って努力をしても効果が得られない場合は、手術をすすめられることもあります。現在、減量を目的とした代表的な手術となっているのが、「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」です。
この手術は胃の約80%を切除し、胃をバナナ1本程度だけ残すもので、食事の摂取量を減らすとともに、胃から分泌される食欲亢進ホルモンを減らして体重を減少させます。2014年に健康保険適用となって以来、実施する医療機関、実施件数とも増えています。
健康保険の適用は、「BMI35以上の高度肥満で、糖尿病・高血圧・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群のうちいずれかがあり、内科的治療を6カ月以上受けても十分な効果が得られない場合」が対象です(糖尿病の場合は、BMI32.5以上でも対象になる場合がある)。
腹部に小さな孔を5カ所ほどあけ、腹腔鏡や鉗子を孔から挿入して胃の約80%を切除します。残す胃はバナナ1本分、約100ccのみです。手術を受ける人は高度肥満で体脂肪の厚い人が多いため、医師の技量と経験が必要といわれています。